通常、国民健康保険などの公的医療保険に加入している場合は、医療費に保険が適用され被保険者は自己負担額のみ支払えばいいことになっています。国民健康保険の場合、70歳未満は3割が自己負担です。この公的医療保険があるため、虫歯や歯周病の治療といった歯の健康に関する治療も安心して受けられます。
しかし、矯正治療の場合は保険適用かどうか、気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。歯列矯正の治療費は高額になることが多いため、なるべく費用を抑えて実施したい方も多いでしょう。
本記事では、矯正治療の際には保険適用が可能なのか、また、適用される矯正治療のケースにはどのようなものがあるかご案内します。これから歯列矯正を検討している方はぜひ参考にしてください。
◇矯正治療は保険が適用される?
日本ではすべての国民がなんらかの公的医療保険に加入する「国民皆保険制度」をとっています。この保険制度は国・地方自治体からの公費と被保険者の保険料によって成り立ち、病気やケガをした際にも、自己負担が少なく治療を受けることが可能となっています。
しかし、矯正治療の場合は基本的には公的医療保険が適用されません。そのため、治療にかかる費用は全額自己負担です。そのため、矯正治療はどうしても高額になる傾向にあります。
◇なぜ矯正治療は保険適応外なのか
公的医療保険が適用されるのは病気や緊急性の高い治療に限られているため、矯正治療は公的医療保険の適用外とされています。
例えば、整形外科の場合、ケガなどの治療に関するものは保険が適用されますが、美容のための外科手術には適用されません。前者は日常生活の健康にかかわる治療である一方で、後者の外科手術は病気や緊急性という面で当てはまらないためです。同様に、歯科治療において審美目的とされる矯正歯科やホワイトニング、インプラント治療などは、保険の適用外とされます。
保険の適用外の場合には自費診療になりますが、均一の治療費となる保険診療と比べると、治療を受ける歯科医によって費用が大きく異なります。そのため、治療をはじめる前にきちんと確認をしておくことが大切です。
◇保険適用の治療と適用外の治療を合わせて受けるときの注意点
矯正治療の際には、矯正そのものの治療費以外にもさまざまな費用がかかります。例えば、虫歯や歯周病などの治療に関する費用です。また、矯正の前のレントゲン撮影などの精密検査や、抜歯をした場合にはその分の費用がかかります。
本来、虫歯や歯周病などの治療は保険の適用範囲内です。しかし、保険適用内の治療と、保険適用外の施術を同時に行うことは混合診療と呼ばれ、違法行為となります。そのため、矯正治療中の虫歯や歯周病などの治療も保険適用外となってしまう場合があります。日頃は3割負担で済む治療も全額自己負担となるため、高額になる可能性があることを覚えておいたほうが良いでしょう。
◇歯列矯正における保険適用の症例
歯列矯正については基本的には保険が適用されません。しかし、嚙み合わせなどの問題から食べ物の咀嚼がしづらい、といった機能的に支障がある場合は例外として保険適用になる可能性があります。保険が適用される矯正治療については、以下のように定められています。
1.「厚生労働大臣が定める疾患」に起因した咬合異常に対する矯正歯科治療
2.顎変形症(顎離断等の手術を必要とするものに限る)の手術前・手術後の矯正歯科治療
3.前歯3歯以上の永久歯の萌出不全に起因した咬合の異常(埋伏歯開窓術をが必要なものに限る)に対する矯正歯科治療
それぞれの症状について解説していきます。
◇先天性の異常(指定された59の疾患)
「厚生労働大臣が定める疾患」については、唇顎口蓋裂、ゴールデンハー症候群、顔面半側萎縮症など59のものが定められています。いずれも日常生活に関わる症状のため、矯正治療が保険適用となります。
以下、代表的な疾患を紹介します。
・唇顎口蓋裂(がくこうがいれつ)
唇や口の中が割れている先天異常です。唇が割れている口唇裂(こうしんれつ)、口腔と鼻腔がつながったようになる口蓋裂(こうがいれつ)、顎の骨が裂けている顎裂(がくれつ)が、すべて出ている状態が唇顎口蓋裂です。嚙み合わせが悪くなりやすく、矯正治療が行われることが多くあります。
・ダウン症候群
先天的に口蓋が狭かったり、上顎の成長が十分ではなかったりすることで、歯並びに影響が出る場合があります。
◇顎変形症と診断された場合
「顎変形症(がくへんがくしょう)」とは、上下の顎の骨の大きさ・形が原因であったり、歯が極端に左右非対称であったりするために、歯の噛み合わせがうまくいかなくなり、顔が変形しているように見えたりするものです。
幼い頃には症状が分かりづらいものですが、成長とともに「不正咬合」の症状が見られはじめ、食事などに支障が出てくる場合もあります。また、いびきや睡眠時無呼吸症候群などの原因になるとも考えられています。
原因としては遺伝のほか、幼い頃の指をくわえる癖などが挙げられていますが、顎変形症と診断された場合、保険診療として治療するためには、外科手術を行うことになります。そして、その手術の前後には歯列矯正を行う必要があります。
◇噛み合わせの異常
「永久歯萌出不全に起因した嚙み合わせの異常」については、幼少期の歯の生え替わりの際に起きるものです。
一般的には6歳頃から、乳歯と永久歯の入れ替わりが始まります。その際に永久歯がうまく出てこないと、永久歯萌出不全という状態になります。
もともと永久歯が作られていないケースもありますが、多くの場合、永久歯が歯茎の中に埋没している状態となっています。治療としては、歯茎を切開して永久歯を引き出す必要が出てきます。埋伏歯開窓術という手術が有効とされていますが、同時に矯正治療を行う場合があります。このような埋伏歯開窓術を伴う矯正治療の場合には公的医療保険が適用されます。
◇矯正治療保険適応となる歯科医院の探し方
上述した症状が見られる場合には、保険治療が受けられます。ただし、公的医療保険による矯正治療は、どの医療機関でも受けられるというわけではありません。厚生労働大臣が定めている施設を持ち、地方厚生(支)局に届け出をし、認可された顎口腔機能診断施設や歯科矯正診断算定の指定医療機関のみで受けられます。
もし、ご自身やお子様が嚙み合わせのお悩みがあり、保険適用の診療を受けたいと考えた場合、認定を受けている指定医療機関を探す必要があります。矯正治療保険適応となる歯科医院は地方厚生局のホームページに掲載されているので、チェックしてみてください。通いやすい医療機関を見つけたら、事前に直接問い合わせて確認すると確実でしょう。
・地方厚生局のホームページからの探し方
地方厚生局の一覧があるページ(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/)にアクセスし、お住いの地域の厚生(支)局をクリックします。
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地域の厚生(支)局のサイト内の検索窓に施設基準届出受理医療機関名簿と入力します。
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サイト内検索結果から県別の受理医療機関より歯科のPDFを探してください
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PDF内で咬合異常に関する診療である「矯診」、顎変形症の手術前・手術後矯正診療である「顎診」が受けられる指定医療機関を探します
ちなみに、指定医療機関には「矯診(歯科矯正診断料算定)」の指定医療機関と「顎診(顎口腔機能診断料算定)」の指定医療機関があります。矯診では上述の「厚生労働大臣が定める疾患」と、前歯3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常についての矯正治療が受けられます。顎診の場合は顎変軽症に関する矯正治療が受けられます。
◇矯正歯科の診療は保険適用される?
矯正歯科の治療を受ける場合、基本的には保険は適用されず自費診療となります。しかし、機能的に噛み合わせの問題などがあるものに関しては保険が適用される場合があります。
保険適用内となる症状としては、厚生労働大臣が定める59の疾患や、顎変形症などが挙げられます。もし、日常生活に支障をきたすような歯並びの悩みがある方は、一度歯科医院に相談するとよいでしょう。